中央区民マガジン

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ありがとう西仲橋「#ど根性トウモロコシ」成長記録

~ コロナ禍の中央区民の気持ちを明るくさせた78日間の物語 ~

2020.11.26
文、撮影:ユキイデ
月島川に架かる西仲橋のふもと、勝どき側の歩道に野生のトウモロコシが生えていたのはご存知でしょうか? 9/1に中央区民マガジンTwitterアカウントのフォロワーの方が「これトウモロコシかな?」というツイートをしたのが物語の始まりでした。
夏の終わりに現れ、秋に一生を終えた「ど根性トウモロコシ」。コロナ禍の暗い気持ちを明るくし、人々に温かく見守られたその78日間の成長記録を記そうと思います。

第1章「発見」

9月1日。
30度以上の厳しい暑さが続いた8月が終わり、9月に入ったその日。パートタイマーB子さんのツイートに目が留まった。

「中央区内に野生のトウモロコシだと!?」
思わず声を上げてしまった。
何度も通っていたのに気が付かなかった。自分の観察力の低さに落胆し、パートタイマーB子さんの観察力に嫉妬すら覚えた。
数日後直接見に行った。これが本当にトウモロコシなのかどうか調べようと思った。

発見者のパートタイマーB子さんはTwitterでこう言った。
「はい、ど根性トウモロコシです。知らんけど!」
こうして、ど根性トウモロコシと呼ばれるようになった。

その後、勝どきや月島エリアに取材がある度にわざわざ西仲橋に立ち寄り、ど根性トウモロコシを観察するようになった。

第2章「成長と注がれる愛」

Twitterに観察日記を投稿するたびに温かい返信が届く。ネガティブな内容はなく、皆が成長を楽しむ様子だった。
皆それぞれ足を運び、写真を撮り、成長を喜ぶようになる。

徐々にど根性トウモロコシに関するツイートをする人々が増えてきた。

9月の中旬には背丈が170センチぐらいになり、その成長の力強さに驚く。
同時に「これは本当にトウモロコシなのか?」という疑問を解決しなければならない使命感に駆られはじめた。

第3章「開花の喜び」

雨が多かった9月が終わった。
10月に入り気温が下がり、朝晩は肌寒さを感じるほどになった。それでも、ど根性トウモロコシは成長を止めない。そして、本当にトウモロコシなのかどうかはまだわからない。

編集部ユキイデは中央区に拠点があるコーン缶を製造している企業数社に問合せた。
しかし残念なことに相手にされなかった。
I社は既読になるも返答なし。
H社は「そのようなことは対応しておりません。」との電話が。
そんな中、発見者のパートタイマーB子さんより連絡が。
なんと花が咲いたというのだ。

銀座でその知らせを知り、すぐに駆けつけた。
小さい花が葉の間から顔を出し、しっかりと伸び、咲いている。

自分の子どもが初めて歩いた時の様な、そんな嬉しさと感動を味わった。
ど根性トウモロコシに愛着が湧き、一生を見届けたいと思い始めた。

第4章「集合知」

花が咲いたことで皆の注目度も上がった。Twitter上でトウモロコシなのかどうか疑問を解決する動きが一気に加速する。
江戸時代から続く、現存する最古の弁当屋である日本橋弁松総本店が動いてくれた。西仲橋に行き動画を撮影。植物に詳しい人・専門家の意見を求めTwitterに投稿した。

すぐさま反応があった。正体がわからない草木があれば、Twitterで「#オラ草が知りてぇ」とハッシュタグを付けて投稿すれば答えてくれるやけに植物に詳しい悟空さんや、元農家の方からの返信があり、これはほぼトウモロコシで間違いないだろうという結論に至った。

第5章「終焉」

10月中旬から一気に冷え込み、ど根性トウモロコシは大丈夫なのか?と心配になった。しかし皆が成長記録を投稿してくれる。

大きさも190センチほどになり、葉の色は濃い緑から茶色になった。
あとは奇跡的に実が実り、もしかしたら収穫ができるのでは?そう思っていた矢先だった。

11月17日、悲劇は起きた。うなこさんの夜中のツイートだった。

なんと根元から倒されていたのだ。
誰が?何で?
翌日ユキイデは西仲橋へ向かった。いつものワクワクする明るい気持ちではなかった。理不尽な悲しみを受け入れるにはどうすればいいのか。そんな事を考えながら向かった。

根元を刃物で切られたような跡があり、倒されていた。まだ傷口から液体が溢れていた。
暑いあの日に見た鮮やかな緑色は、白くなりつつある。
誰が何のためにそうしてしまったのかはわからない。
通行の邪魔になってしまっていたのかもしれない。
所詮雑草なのかもしれない。
手を合わせて「ありがとう」と心の中で唱えるしかなかった。

後書き「ありがとう。ど根性トウモロコシ。」

コロナが蔓延し暗い話題が多い中、ど根性トウモロコシは皆に元気を与えてくれた。
雑草のタフネスを魅せてくれた。気付いた人は足を止めた。
西仲橋で写真を撮っていたら何人もの人に声をかけられた。
最後に声をかけてくれたのは優しそうなおばあちゃんだった。
「かわいそうにねぇ。せっかく大きくなったのに。」

帰り道、明治生まれのおばあちゃんを思い出した。
おばあちゃんはトウモロコシを「トウキビ」と言った。
なんで昔の人はそんな変な言い方をするのかな?と、いつも思っていた。
夏休み、外で遊び汗だくになって家に帰ると、家の中の方がむっとする温度と湿度、そしてトウモロコシのにおいが充満していた。
「トウキビゆがいたで。はよ食べや。あまくて美味しいで。」
やけどしそうになりながら、かじりついた。とてもあまくて美味しかった。
おばあちゃんも負けずにたくさん食べた。
「残したらアカンで。こんなに立派に育ったんやから。」
空襲、台風、地震を経験したおばあちゃんは、食べ物がどれほどの苦労の上で食卓に並ぶのかを知っている。
おばあちゃんなら引っこ抜いて家で育てたかもしれない。もしくは、水をやりに西仲橋まで通ったかもしれない。おばあちゃんならどうしたのだろう?とずっと考えているけど答えが出ない。
きっとずっと答えは出ないと思う。だけど、道で声をかけてくれたおばあちゃんと同じことを言うはずだ。
「かわいそうにねぇ。せっかく大きくなったのに。」
ありがとう、ど根性トウモロコシ。

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ユキイデ (編集部)

2006年から日本橋エリアに住み始める。 南大阪生まれの巨漢。デスメタルが大好き。 おばあちゃん子。

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