首都高地下化の工事が始まり、周辺の再開発も加速している日本橋。日本橋三越本店から中央通りを挟んで向かいのエリアの一角も、三井不動産(株)による再開発がいよいよ動き始めています。山本海苔店、ブリッジにいがた、大和屋など、見慣れたお店はどうなってしまうのか?そんな中、再開発該当エリアにある木造建築の老舗画材店・有便堂が日本橋学生工房と面白い取り組みを始めました。
~ 画家・書道家たちに認められた名店で、貴重な画材道具に囲まれて ~
ノスタルジックな佇まいの有便堂
首都高地下化の工事が始まり、周辺の再開発も加速している日本橋。日本橋三越本店から中央通りを挟んで向かいのエリアの一角も、三井不動産(株)による再開発がいよいよ動き始めています。山本海苔店、ブリッジにいがた、大和屋など、見慣れたお店はどうなってしまうのか?そんな中、再開発該当エリアにある木造建築の老舗画材店・有便堂が日本橋学生工房と面白い取り組みを始めました。
小学4年生が体験
この企画は簡単に言うと歴史あるお店を貸し切り、大切な人へ手紙を書くというだけのもの。お店が営業していない土日を利用し、50分間じっくりゆっくり考え、普段あまり書かなくなってしまった手紙を書いてみよう!というものです。
料金は1人2,000円、50分制、切手代と投函までの手数料込みの金額です。
今回は編集部ユキイデの息子に体験してもらいました。コロナ禍以降あまり会えていない大阪に住むおばあちゃんに書くと決めていたようです。
暗い部屋にライトがひとつ
手紙はこう書くべき!というようなレクチャーはなく、簡単な説明を受けて開始。参加者の意志・意向を尊重する自由な雰囲気です。
「それでは始めます」という言葉と共に、シャッターを閉じられ店内は温かい色のテーブルライトひとつだけに。店内には静かにジャズが流れており、何とも言えない不思議な空間に早変わり。急きょ奥さんも書くことになりました。
親子で相談しながら書き進めます
2人の様子を眺めていましたが、いつもより落ち着いた口調で、深く呼吸をしながら会話をしていました。かといって緊張する様子はなく、迷いなくスラスラと書き進めているようでした。
田舎のおばあちゃんのお家でもなく、図書館でもなく、美術館でもなく、勉強部屋でもなく、どこでもない感覚。よくロックバンドやアーティストが、数々の名作を生んだ歴史あるスタジオを選んでレコーディングをするのですが、いま目の前にある空間で行われているのは、それに近いのかもしれません。
レトロな鉛筆削り器
たくさんの珍しい筆
岩絵具
日本橋の便箋
高級な画材道具
貴重な展示も
ふと周りを見回すと、お店の人に聞いてみたくなるような物ばかり。自分の知識がないせいかもしれませんが、なんだかそれも建物の一部のような気がしてきました。どれもひとつずつストーリーがあって、大切にされてきたのが分かります。そんなことを考えているとこの場所で手紙を書くのは、今回の企画にピッタリだと思いました。
息子が書き終えたようです。シンプルですが伝えたいことを簡潔に伝えていて素晴らしい内容でした。奥さんはお世話になっている日本橋の某社長宛に書いていました。届いた時の反応が楽しみです。
有便堂の四代目 石川朋季さん
息子に対して優しい口調でアドバイスしてくれた石川さん。とてもリラックスできる環境を提供してくれました。
この企画を始めてなにか気付いたことはありますか?と聞いたところ、石川さんは生き生きとした表情でこう語りました。
「建物は無くなってしまいますけど、皆さんのこの場所での思いっていうのは、きっとずっと残るんだなと思いました。」
宛名を書いて完成
封筒に宛名を書き、石川さんに渡して終了。有便堂で預かった手紙は、日本橋室町局の風景印が押印されて配達されます。ちょっとしたことかもしれませんが、そういう細かいことがとても粋ですね。届いた人も日本橋室町の情景が浮かぶのではないでしょうか?
日本橋学生工房の黒部真由さん(左) と 有便堂の石川朋季さん(右)
この企画は日本橋学生工房の活動の中で、有便堂の建物が無くなってしまうということを知り、何か自分たちでできる事が無いか?と考え、アイデアを石川さんに持ち込んで実現したそうです。黒部さんはこう語ります。
「私たちの活動は、日本橋のまちについて学生の視点から考え、地元の方々と交流して今後の日本橋のあり方を提案しています。コロナ禍で思うような活動が出来なかったのですが、今年度に入りメンバーが18名に増えました。今まで20年以上続いてきた団体です。先輩方の築いたものを引き継ぐだけでなく、新たに日本橋の方々とのご縁を結び、活動を展開していきたいです。日本橋は人の心が熱いまちだと思います。学生である私たちを温かく迎えてくださる皆様に感謝しながら、今後も地域との対話を大切にしていきたいです。」
対して、石川さんはこう語ります。
「日本橋学生工房のおかげですね。デベロッパーにはこんな事はできないと思いますし、起業家どうしでも出来ないと思います。学生さんの熱意を伝えたら日本橋室町郵便局にも快く同意を得られましたし、これからもこういう形で日本橋を盛り上げて欲しいですね。」
夏には退去すると語る石川さん
いよいよ再開発が始まり、夏には退去する意志を固めたと語る石川さん。今後はWEBでの販売を継続していくとのことだが、お店はどうなってしまうのか?まだ未確定な部分が多いなか、思いを語ってくれました。
「いまのお店のような歴史がある建物を色々探したんですけど、見つかりませんね…。人形町あたりも探しました。でも本当に残っていない。」
少し悔しそうな表情で、こう続けました。
「古くて遺(のこ)っているものって、価値があると思うんですよね。だから私は遺すべきと思っています。」
家族で体験した有便堂での約1時間は、なんだか神社にお参りにいった後のような、少しスッキリしたような、パワーを貰ったような感じになりました。いざ誰かにちゃんと手紙を書くというのは、メールのように数分では終わらない行動ですが、その手間こそが相手のことを考える時間であり、そしてどこでその手紙を書くのか?というのも大切なんだと感じました。
推しへのファンレターを書くもよし、婚姻届を書くもよし、もしかすると終活の遺書を書くのにも良いかもしれません。有便堂があの場所、あの建物でいる姿はあと少し。ちょっと自分に向き合って、手紙を書きに行ってみてはどうでしょうか?
編集部ユキイデが撮影・編集で携わっている『日本橋もの繋ぎプロジェクト』。21繋ぎ目(21話目)で有便堂が登場しています。お店の歴史や石川さんのことが詳しく語られていますので、記事と併せてぜひご視聴ください。
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