人通りの多い人形町通りに面した東京メトロ半蔵門線「水天宮」駅の7番出口の目の前にある壽堂さんは近隣の方々は勿論、休日平日を問わずひっきりなしにお客さんが訪れるお店です。
~ ニッキの香りに誘われて、あの暖簾をくぐりたくなる「壽堂」 ~
人通りの多い人形町通りに面した東京メトロ半蔵門線「水天宮」駅の7番出口の目の前にある壽堂さんは近隣の方々は勿論、休日平日を問わずひっきりなしにお客さんが訪れるお店です。
創業から約140年の時を紡いできた壽堂さんはその歴史に触れられる要素が沢山!
まずは紙袋に印刷されているお菓子の一覧「四季精菓録」。
この四季精菓録はお店所蔵ではなく、博物館で発見されたものを人伝いで知ったのだとか。当時はいわゆる筆字の時代でしたので、現代の字体に書き直し、紙袋のデザインに落とし込んだそうです。
黄金芋の袋の中には、明治30年代「四季精菓録」のほか、昭和20年代の「志保里(しおり)」に掲載されていた文面も。
和菓子屋さんの紙袋や掛け紙にはお店の歴史が記載されているものが多々ありますが、壽堂さんのものは年代が異なるということもあり非常に読み応えがあります。
それでは早速、壽堂さんの代名詞である「黄金芋」をご紹介!
鮮やかな金糸雀色の包装紙に、キャンディのように包まれた黄金芋。開封前からすでにニッキの華やかな香りが立ち上ります。
7センチほどの長さの黄金芋は贅沢に満遍なくニッキを纏い、ころりとした温もり溢れるさつまいものような容姿も印象的。「ころり」と表現したのには訳があり、それはその製法から。
白餡に黄身を混ぜた黄身餡を、一般的な焼きまんじゅうに比べると極薄皮の小麦粉の皮で包み、ニッキを塗したあと、約400度まで熱した窯にて串焼きに。そのため鉄板に乗せてオーブンで焼き上げる焼き菓子とは異なり、立体的でまるみを帯びた独特な形に。
中の餡には串の跡が
鉄板に接する面が無い分、芳しいニッキを全体で味わうことができるのも嬉しいところ。
そのお味は、パッと花開くようなニッキの風味が口全体に広がったかと思えば、中から顔を出すまろやかな金糸雀(カナリア)色の黄身餡が絡み合い、甘味と刺激のバランスが絶妙な味わいに。
黄身餡の舌触りに調和した、適度にしっとりとした薄皮の食感にも好感が持てます。ゆっくりゆっくりと舌の上で黄身餡を味わい呑み込んだあとも、目を細めてニッキの清涼感に浸れば、もう一口、さらにはもう一本と手も口も止まりません。
温かいお茶や珈琲は勿論、ウイスキーのロックに合わせればまたハイカラで大人の表情に。
「さつまいもよりもずっと高級なニッキと黄身餡のお菓子を、「お芋だよ」なんてサラリとお土産に渡す江戸っ子の粋ですね。」
5代目女将の杉山青子さん
にこっとチャーミングな目元で教えてくださったのは、代表取締役である生まれも育ちも人形町の5代目女将・杉山青子さん。ちゃきちゃきっと快活で歯に衣着せぬ物言いからは温かでエネルギッシュなお人柄が伺えます。
幼少期より人形町の街を歩き、3代目が営む壽堂さんのショーケースに鼻をくっつけて見入っていたという女将。すでに女将自身が名物なのでしょうか、女将にお会いして嬉しそうに話に花を咲かせるお客さんも。
「まずはニッキを使用しないお菓子を作ってから。そのあとニッキを使用した黄金芋を仕込んで、お店の床から全部雑巾で水拭きします。」
壽堂さんでお買い物をしているとき、どこか気持ち良いなと思っていた理由はこういったプロの意識と気配りにもあるかもしれません。
コロナ禍になって中止していますが、お客様にお茶をお出しし始めたのも女将から。昔の自動販売機には甘いジュースばかりが並ぶ中、外出先で美味しいお茶をいただけてとても嬉しかったという反響を方々から受けて続けていらしたそう。
壽堂さんが昔と変わらない「座売り」を続けているのも、礼節や心配りを重んじる女将らしさのひとつといえるかもしれません。
「何しろこの歴史ですからね、博物館級の調度品ばかりですよ。」と教えてくださった女将。
菓子箱をアレンジした壁や木目が鼈甲のような照り具合になっているショーケース、今ではもう修理することができないガラス容器の猫瓶など、視界に入るものが実は相当な年代物ということをご教示いただきました。
その中でもふたつ、私のお気に入りをご紹介。
ひとつめは天井。
それぞれ異なる3種類の木目の配置になっております。こちらは茶室の天井にも取り入れられる建築様式であり、日本の伝統ひいては美意識にも通ずる「真・行・草(しんぎょうそう)」を意識したもの。お客さんが立つ「真」、従業員の方が作業をする「行」、お店の主が応対をする「草」。網代編みの部分など、温もりと美しさが醸し出される天井にも注目です。
ふたつめは入口。
よく御覧ください。昔からのドアが無いことに気づきましたか?
今でこそ自動ドアが設置されていますが、床の溝も自動ドアのためのもの。自動ドアがつく前に使用していたであろう引き戸の隙間やレールが無いのです。昔は自動ドアが無く暖簾だけで外と店内を隔てていた名残りだそうです。シャッターの設置も人形町の店舗の中では比較的早かったそうで、当時としてはかなり画期的だったとか。
お会計を待っている間、ぜひ注目して見てくださいね。
黄金芋が初めて世に出回った際には、おそらく多くの人が驚いたのではないかと思うのです。(冒頭に掲載させていただいた明治30年代のお言葉にも「珍菓」「極めて新奇」と記載されている程ですからね…)
それでもその実直な美味しさと粋な茶目っ気が江戸っ子たちのお気に入りになり、100年以上の時代を超えて愛されるお菓子となって今に至る。
そして、長く愛されていくことと切っても切り離せない、女将をはじめとした壽堂の皆さんの礼節を重んじる姿勢から、「モダン」が「クラシカル」になっていく秘訣を見いだせたような気がします。
今この文を書いている瞬間も、鼻腔にニッキの香りがよぎります。
京菓子司 壽堂
東京都中央区日本橋人形町二丁目1-4
0120-480-400
月~土:9時~18時30分
日祝:9時~17時
定休日:1月1日・2日
※7月16日~2ヶ月ほど工事のため休業
地域企業・団体に協賛いただいてます