【中央区 和みの散歩】「三廼舎」のむぎ空(日本橋富沢町)

~ 祖父と父の背中を追いかけ追い越して。個性的な焼き菓子が揃う人形町の銘店 ~

2022.09.06
文、撮影:柳谷 ナオ
和菓子大好き区民ライター、ナオです!

令和になっても数多の老舗が軒を連ねる街「人形町」。和菓子屋さん天国ともいえる街で、甘さ控えめな桃山やどら焼きなどの”焼菓子系”和菓子の品揃えが豊富な和菓子屋さんをご存知ですか?
今回は、艶やかな稲穂が印象的な「三廼舎」(さんのや)さんの「むぎ空」をご紹介します!

三代目・石川剛さんが営む三廼舎さん。創業は昭和14年5月5日。当時は日本橋丸善さんの裏側でお店を構えていたそうです。「三廼舎」という屋号は初代・石川三之助さんご自身のお名前からとのこと。

しかし、昭和20年の東京大空襲でお店は焼失。「あの辺は全部燃えてしまってね。」と、初代の娘さんであり剛さんのお母様・みさ子さんが遠くを見つめるような眼差しでお話ししてくださいました。その後、終戦後まもなくの昭和22年、三廼舎さんは現在の場所(日本橋富沢町)で営業を再開しました。

明治神宮からの奉納の感謝状

煌びやかな上生菓子を得意にしコンテストなどへ出品していた初代や、バラエティ豊富な品揃えを心がけていた二代目とは一線を画し、三代目の剛さんは「焼菓子」中心という大胆な方針変更を!

かつては花街、そして中小企業や問屋さんがひしめく賑やかな人形町でしたが、最近はマンションが建ち並び、住宅地の色合いも強くなりました。そのため、手土産として人気だった上生菓子などの需要は減少。このままではいけないと思い立った剛さんは、季節を問わずおやつにもお土産にも手軽に購入できるような焼菓子を追求しはじめました。

今回ご紹介するのは、その中のひとつ「むぎ空」です!
実は剛さん、代々受け継がれてきた商品はどら焼きのみを残し一度封印なさったそうです。ですが、配合等をアレンジしながら、時代に合った味わいを追求し、ようやく納得のいくものに仕上がったので復刻させたという逸品です。

むぎ空(200円)

卵黄が塗られた艶やかな表面には、こうべを持ち上げる麦の姿が。これからやってくる豊穣の秋が思い浮かびます。

皮はやや薄めのほんのりさっくり系。お饅頭、というよりは、厚焼きクッキーのような印象です。ですが、しっかりと焼き上げられていながら、しっとりとした食感は損なわれていない絶妙な焼き加減。立ち上る香ばしさ、それを包み込むようなミルキーな甘い香り。

剛さんこだわりの3年かかって完成したという手で漉したこしあんは、すっきりとした甘み。中には粗くきざまれたくるみが。くるみの食感は主張しすぎず、皮やこしあんと上手くまとまるような歯ごたえです。

こちらの皮、先ほど述べた”香ばしい”という表現だけでは言い尽くせない奥深さがあります。
その秘訣は、皮にも練りこまれたくるみパウダーと白すりごま!
よくよく側面を観察してみると、確かにこげ茶色の粒が見受けられます。
甘さ控えめの上品な焼菓子として、手土産の候補リスト入り間違いなしですね。

ひらめきを活かしたい、無駄にしたくない

「父親はほとんど教えてくれませんでしたね。ザ昭和、背中を見て覚えろといった人でした。」

ニコニコとお話しして下さった剛さん。時折喧嘩もしつつもそれは親子としての愛情があったからこそ。互いに切磋琢磨しあう間柄でもあったそう。

「今でも母がたまに言うんですよ、前はそうじゃなかったとかどうとか。」

お母さまのみさ子さんとの掛け合いも、傍から見れば楽しそうでこちらが笑顔になってしまうほど。時折、軒先にたって接客してくださるみさ子さんは朗らかで物腰柔らかな女性ですが、ご意見番ぶりは健在なよう。

三代目・石川剛さん

初代に比べ、二代目はほんのり甘さを控え、剛さんも更に甘さを控えながらも美味しいと感じてもらえるような商品開発に余念がありません。

同じ焼菓子ひとつとっても、季節によって形や中身の味に変化をつけたり、配合を変えたりしてその時のベストになるよう研究しているとのこと。

「乳化剤や保存料などを使わず作っているので、その変わりになるような食材を色々考えて作っています。豆乳を使ってみたり、粉の配合を変えてみたり。」

日々訪れるお客さんの声に耳を傾けながら、できるものを精一杯作る。同じものを作るのではなく、より良いものを極めていく剛さんのお菓子は、同じ物でも仕込むたびに味わいが変化していることも。

自分のお気に入りが、来年はどんな形か、次はどんな味わいか楽しみにしながら訪問するというのも、ひとつの楽しみ方ですね。

剛さんには一人娘のお嬢様がいらっしゃり、お菓子の専門学校に通う傍ら和菓子屋さんで修業を積まれているそうです。卒業を控え、将来のこともお話しなさることもあるとか。

「娘は娘で色々思い描いてることもあるみたいですけどね、まだまだですよ(笑)」と、目を細めながら楽しそうにお話ししていらっしゃいました。
お嬢様のことをお話ししているとき、「楽しそうですね」とお伝えしたら、そんなことはないとおっしゃる剛さん。愛情は隠しきれないようです。

剛さんのリフレッシュは、市ヶ谷の釣り堀に行くことだそう。

「餌を手で丸める作業で、指先の感覚を確認したりリセットするんですよ。息抜きっていっても、やはりこういうこと(お菓子作り)に繋がってるんですけどね。」という根っからの職人気質のご主人が営む街の和菓子屋さん。

美味しいおやつを食べようかな、ちょっとほっこりしようかな、という時にふらりと立ち寄りたい和菓子屋さん。

次回「三廼舎」さんへお伺いする際は、どんな変化があるかすでにわくわくしている私です。

お抹茶セット

イートインスペース

三廼舎さんはイートインスペースも併設しており、お抹茶や珈琲と一緒に水ようかんなどのお菓子がいただけます。
裏手の久松児童公園の豊かな緑と子供たちの声に耳を傾けながら、人形町散策の小休止もいかがでしょうか。

三廼舎(さんのや)
東京都中央区日本橋富沢町16-3
03-3661-5891
月~土 9時30分~17時(土曜~16時迄)
定休日 日・祝
東京メトロ日比谷線・都営浅草線「人形町」駅A3口より徒歩3分

柳谷 ナオ (区民ライター)

甘いものがなくちゃ始まらない! 中央区と和菓子とあんこが大好きな1児の母。 老舗から新参店まで、色んな和菓子と触れ合いたい。 好きな言葉は「あんこ」「もちもち」

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